よく子どもの歯並びについて「様子を見ましょう」、と歯医者さんからも保護者の方からもよく耳にします。
果たして本当に様子を見ているだけでいいのでしょうか?
それとも積極的に矯正治療などを行わないと、将来取り返しのつかないことにならないでしょうか?
ここでは矯正治療の頻度が比較的多い”上顎前突”(出っ歯)について説明します。
上顎前突は一般的には”出っ歯”と呼ばれています。
下の前歯に対して上の前歯が出ている状態になります。
この状態は将来、噛み合わせによる歯周病や歯の破折になりやすいだけでなく、顎関節症や睡眠時無呼吸症候群などになりやすくなります。
上段のケースは隙間だらけの乳歯列で、下の前歯の先端が上の前歯の先端付近で接触しており、一見良くないと見えます。
しかしこういったケースでは特に何もしなくても永久歯に全て生え変わると、理想的な歯並び・噛み合わせになります。
下段のケースは乳歯列の時点で既に上の前歯で下の前歯を完全に覆ってしまうほど深い噛み合わせです。
しかし何もせずにただ様子を見ていただけだと永久歯の萌出が完了すると、下の前歯で上あごの歯肉を噛んでしまうほど極端な上顎前突(出っ歯)になってしまいます。
上段は先ほどお示しした乳歯列の時期に、下の歯で上の歯の裏側の歯肉を噛んでしまっているほど極端な出っ歯になっております。
ただ永久歯が生え揃うまで様子を見ているだけだと予想通り極端な出っ歯になってしまいました。
下段は既に小学校後半に差し掛かった混合歯列(永久歯と乳歯が混じっている時期)のお子様で、上段と同様に下の歯で上の歯の裏側の歯肉を噛んでしまっているほど極端な出っ歯になっております。
早期の矯正治療の必要性を説明し、ご家族の理解を得ることが出来ました。
早期に矯正治療を行うことで、さほど大掛かりなことを行うことなく、比較的簡単な治療で済ませました。
現在ではきれいな永久歯列になっています。
このように極端な出っ歯のケースでも、治療開始時期のチャンスを間違えなければ、簡単な治療で歯を削らず、歯を抜かず、きれいな永久歯列を早期の矯正治療で得られることがあります。
正常な噛み合わせの場合、内側からの舌の力と外側からの唇や頬の力のバランスが取れていて、咬む力も適度に働いています。
発育期にこの状態が維持できていれば、顎顔面頭蓋の発育、特に前方成長が促進され、正しい歯並び・噛み合わせの獲得に大きく働きます。
一方、上顎前突(出っ歯)によくあるパターンでは本当に上の歯が出ているわけではありません。
上の前歯を支えている上顎骨基底部の前方成長が悪いせいで、上の前歯の根の先が内側に引っ込まざる得ず、結果として上の前歯が外側に大きく傾斜してしまいます。
さらに下顎全体の発育が悪く、顔面や上顎骨に対して下顎がさらに後ろに下がっています。
また上の唇の力が弱くさらに上の前歯は外側に大きく傾斜し、下の唇の力が強く下の前歯は内側に傾斜してしまいます。
正常咬合の骨格と上顎前突の骨格の重ね合わせです。
鼻付近を重ね合わせの基準に合わせております。
上顎前突の場合、顔面や上顎に対して下顎がかなり後方に下がっており、相対的に上の前歯が出ているように見えます。
ただ上の前歯を支えている上顎骨基底部も後退している結果、上の前歯の歯根の先端は内側に位置せざる得ず、結果として上の前歯は外側に傾斜して、さらに出っ歯に見えます。
さらに上下唇の力によって、上の前歯がさらに外に傾斜し、下の前歯がさらに内に傾斜するため、さらに出っ歯に見えるようになります。
下顎が後ろに下がってしまうと、顎関節でも下顎骨の下顎頭は後ろに下がってしまい、顎関節の動きをスムーズにしている関節円板が結果として前方に滑ってしまい、その結果顎関節がスムーズに動かなくなる顎関節症を発症します。
下顎骨は様々な筋肉と繋がっており、そのバランスが崩れてしまうと顎関節症のみならず以下のような症状を発症することがあります。
下顎と舌はたくさんに筋肉でつながっており、非常に強い関係があります。
下顎が後ろに下がってしまうことに伴って、舌も後ろに下がってしまいます。
その結果、後ろに下がった舌が喉の気道を狭めてしまい、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす大きな原因となります。
正常な噛み合わせの場合、上の前歯と下の前歯はスムーズに歯ぎしりが出来るため、下の前歯から突き上げられる力が上手く逃げるため、上の前歯に過剰な力がかかりにくく、歯周病のリスクが軽減します。
一方、上顎前突で出っ歯になった噛み合わせの場合、深い噛み合わせによってスムーズな歯ぎしりが行えず、下の前歯から突き上げられる力を上の前歯がもろに受けてしまうため、上の前歯に対してさらに外に倒す力がかかってしまい、歯周病のリスクが増大します。